PM1401K-3M, PM1401K-3 取扱説明書

α・β・γ+中性子線対応、核種識別マルチサーベイメーター

カリウムからの影響

焼却灰や食塩250g など、カリウムが非常に高いものを測定すると、セシウムの値が高く表示されることがあります。これは、どの放射線測定器でも、程度の差はありますが、同様に発生する現象です。

なぜカリウムが多い食材では、セシウムが入っていなくても、セシウムの値が高く測定されるのかを見ていきましょう。

少しお勉強になりますが、カリウムやセシウムなど、ガンマ線を出す物質からの放射線は、その物質によって異なるガンマ線のエネルギーを持っていることが知られています。

たとえば、セシウム137 の場合、662keV です。カリウムの場合、1504keV です。ここで keV は、エネルギーの単位で、今は、詳しく分からなくても、OK としておきましょう。

物質ごとにエネルギーが知られており、ガンマ線の放射線を見つけたときにエネルギーも調べることで、逆に物質名を知ることもできます。

こちらは、あるガンマ線をエネルギーごとにグラフ化したものです。このようなグラフを「スペクトル」と呼びます。

グラフでは、600-700 keV ぐらいに強いピークがあることが見えます。セシウム137 は、エネルギー 662 keV を出すことが知られていますが、これはセシウム 137からの放射線ということが分かります。

核種識別PM1401K-3M

コンプトン散乱による影響

セシウム137 のエネルギーは、662keV ですが、値は低いですが、0 -- 500 keV の範囲にもエネルギーがあることが分かります。

これは、飛んできた放射線が検出器に当たって跳ね返ったり、検出器の外に逃げていってしまった場合のスペクトルを示しています。これをコンプトン散乱によるスペクトルと呼びます。

セシウムの場合、662 keV にピークがあり、それ以下のエネルギーにコンプトン散乱のスペクトルが広がります。同様にカリウムは、1504keV よりも低い範囲に広がります。

以下の図のように、カリウムのコンプトン散乱の影響は、当然、662 keV のところにも被っています。

放射線測定器は、緑で示した範囲のエネルギー帯(400-800keV)をセシウムからの放射線として監視しています。そこでカリウムが多い物体を測定すると、セシウムの範囲(400-800keV) のエネルギーとして誤検出してしまいます。 これがカリウムが多い物体を測定すると、セシウムと誤判定されるという原因になっています。

これは放射線の性質であり、どの測定器でも発生する現象です。同様の現象は、カリウムだけではなく、セシウムよりも高いエネルギーを放出する放射線を出す一部の金属など、セシウムの放射線測定には、他の核種からの様々な影響を受けています。

核種識別PM1401K-3M

厚生労働省のスクリーニング法での取り扱い

カリウムからの影響は、食品の安全性を確認するための「厚生労働省のスクリーニング法」の中にも同様に記載があります。

他核種の影響の補正 食品試料中には K-40 が含まれていることがあり、コンプトン効果により測定範囲のカウントを増加させ、正のバイアスが生じる。 スクリーニング法では正のバイアスを許容しているので、これを補正する必要はない。補正を行う場合は、測定下限値の確認と、 補正が過大となり負のバイアスを生じないことの確認が必要であるので、ソフトウェア開発者に確認する。

厚生労働省の資料からいえば、カリウムが含まれている測定物は、コンプトン散乱の効果で、セシウムの放射線を高くしてしまうが、一切、これを補正せず、セシウムの放射線が、見かけ上、高いままで、放置してよい、という内容になっています。

つまり、いろいろな放射線を出す物が世の中にはあるので、セシウムだけを完全に正確に測定するのは、簡単ではない。そのため食品に含まれるセシウムの高めに測定してしまうのは、許容しよう。一方で、低めに見積もるのは、許容しない、という方針になっています。