化学兵器(CWA)・有毒工業物質(TIC)を検出
IMS検出器によるCWA化学兵器の高感度検知
GTD-S II / GTD-Module B は、ppb レベルを検出する高感度 IMS 検出器です。サリン(GB)、VX, ノビチョク(Novichock 気化したもの) を含む CWA(化学兵器) を検出できます。 TIC(毒性工業化学物質) では塩素、アンモニア、硫化水素などを検知します。
CBRNなどテロ対策、災害に対応する消防や、軍事における自衛隊の現場で必要とされる監視能力を提供します。一般工場では産業安全や環境モニタリングにも有効な連続稼働できる化学剤検出器です。
サリンやVXを秒単位で識別する高感度性能
非膜構造の高感度IMS検出器により、サンプリングから判定までの応答時間は 15〜30秒 と短く、サリンやVXといった化学兵器を即時に識別できます。化学テロや産業事故の現場で迅速な初動対応を実現できます。
化学剤検出器としての即応性は、消防・警察・自衛隊の任務において重要な役割を果たします。CWA・TICをカバーする化学剤検出器として、世界各国で採用されている365日間の連続稼働を目的とした IMS検出器です。
安全性と長期運用性を両立した設計
GTD-S II / GTD-Module B はメンテナンスなしで1年間の連続稼働できる設計です。ミサイルシェルター、CBRNラボ車両、工場などでの24時間365日の連続モニターに最適です。
イオン化にはトリチウム線源が利用されており長期間安定したイオン化が可能です。線源は 100 MBq 以下の密封線源で、 放射線を放出する同位元素の数量等を定める国内の法規制を受けない量のより小さい放射線源を利用しています。
組み込み開発に対応
GTD-Module B は組み込みに対応したモジュールタイプです。
Ethernet (LAN RJ45)、USB 2.0、HTTP / Modbus / XML、フローティング接点出力(アラーム・エラー信号)などの多彩な入出力により、工場のPLCシステムや都市監視ネットワークへの統合開発ができます。
Webインターフェースを使えば遠隔地からのブラウザ操作や監視も可能となります。固定式システムや移動式のCBRNラボ車両システムにも直接組み込めます。
イオンモビリティスペクトロメトリー検出器の仕組み
GTD-S II / GTD-Module B は、イオンモビリティスペクトロメトリー(Ion Mobility Spectrometer)技術を用いた高感度化学兵器・毒性ガス検知装置です。
ppb~ppm レベルの低濃度ガスをリアルタイムに識別し、分類・定量化することが可能です。
- サンプリング:空気を取り込み、サンプルガスを内部に導入する。
- ガスのイオン化を行う。トリチウム線源(H-3、100 MBq、密封線源)を用いて放射線の電離作用により分子をイオン化。
- ドリフト:電場内をイオンが移動し、分子ごとの「移動時間(ドリフトタイム)」を測定。ガスに含まれる分子の大きさによって電場内の移動時間にいろいろな差が生まれます。
- ライブラリによる判定:得られたドリフトパターン(スペクトル)を、内部に記録されたサリンやVXガスの場合のスペクトル波形データと比較照合して化学物質を識別。
これにより、サリンやVXといった化学兵器(CWA)、または塩素やアンモニアといった毒性工業化学物質(TIC)を短時間で検知できます。警察、消防、自衛隊など国内でも IMS検出器が使われています。

放射線源によるイオン化
GTD-S II や GTD-Module B では、完全密封されたトリチウム(H-3)線源 100MBq を利用しています。放射線の特性の一つとして電離作用があります。ガスを放射線にさらすことでイオン化されます。トリチウムは半減期が約12年と長く、レーザーと異なり、定期交換が不要であり長期間安定したイオン化が可能となります。
線源の放射能(Bq)も日本国内で規制がかからない下限数量以下の小さい放射線源を利用しており、利便性と安全性にも配慮しつつ運用コストを抑えた運用を行えます。
IMS検出器の利点
IMS 検出器は、化学剤などの有毒ガスを高速に判定します。約15〜30秒で化学物質の判定結果が得られ、ppb レベルでの検知ができる高感度設計です。
CWA化学兵器 サリン(GB)、VX、ソマン(GD)、マスタード剤(HD)、ルイサイト(L)、ホスゲン(CG)や、ガス化したノビチョク等、TIC毒性工業化学物質では、塩素、アンモニア、硫化水素、二酸化硫黄、アクリロニトリル、ベンゼンを高感度で検知できます。
GTD-S II / GTD-Module Bは、1年間連続稼働できる設計となっておりメンテナンスによる消耗品の交換は1年に1回のみです。
IMS検出器の限界
IMSにも限界があり類似した分子、たとえばソマンとシクロサリンは区別が困難な場合もあります。またIMSは高湿度環境では性能が低下する可能性があります。
GTD-S II では非膜式のオープンIMSセルとフィルタ加熱制御を採用しています。非膜の構造のIMSがガスが直接導入されるため応答速度が速く濃度変化をリアルタイムに追跡できる利点や、低揮発性のガスも検出できる利点があります。一方で水分がそのまま入っていくためイオン形成が不安定になる欠点もあります。湿度に弱い点を補うため大型の除湿ユニットを使うことで1年間の連独運転を実現しています。

小型・軽量設計
GTD-S IIの外形寸法は 500×210×500 mm、重量は約 23 kg。
一人でも移動・設置が可能で、サーバールームや制御盤内など 限られたスペースにも容易に組み込みできます。従来型の大型固定検知器に比べ、導入ハードルを大幅に下げています。
24時間365日連続運転
GTD-S II は設置後、1年以上にわたる連続稼働が可能です。自己診断機能(BIT)を備えており、内部の不具合やフィルタ状態を常にモニタリング。
異常が発生しても自動的にセルを保護し、運転を継続する仕組みを持っています。これにより、公共施設、工場、シェルターなどで連続的なCBRNモニタリングが可能です。

特長
- IMS方式による高感度検出(ppb~ppm レベル)
- 24時間365日運転が可能
- 1年間メンテナンス不要
- 軽量小型設計(500×210×500mm、23kg)
- 高速応答(約10秒以内に検知・判定)
- 湿度補正機能付きオープンIMSセルによる安定動作
- 豊富なインターフェース(USB / Ethernet / Modbus / PLC / HTTP)
- 柔軟な統合性(独立型・モジュール型・センサーモジュール)から選択可能
- 検出対象: CWA(化学兵器), TIC(有毒工業物質)
- 高感度検知:ppb ~ ppm レベルの低濃度まで検出可能
- 自動保護機能:過負荷時は自動的にセルをクリーンアップして運転継続
- 湿度対策:IMSセル加熱とフィルタにより高湿度環境にも対応
- 高濃度汚染時の自動パージ・除染機能
- 自己診断機能:BITによる故障検知と保護
操作モード
GTD-S II には2つのモードがあります。
検知時は画面に赤色アラームが表示され、ガス名・濃度・イオン極性などの情報が提示されます。物質が消失すると、表示は黄色の情報画面に切り替わります。
モード | 動作 |
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自動測定 (Auto Sample) | 標準的な連続測定モード |
手動測定 (Trigger Sample) | 必要時のみトリガーで測定 |

開発者向けのIMS検出器
GTD-Module B は組み込みに対応したCBRN偵察車両や、基地、工場、研究所向けに統合開発を行うための IMS モジュールです。性能は GTD-S II と同じです。
Ethernet (LAN RJ45)、USB 2.0、HTTP / Modbus / XML、フローティング接点出力(アラーム・エラー信号)などの多彩な入出力により、工場のPLCシステムや都市監視ネットワークへの統合開発ができます。
Webインターフェースを使えば遠隔地からのブラウザ操作や監視も可能となります。固定式システムや移動式のCBRNラボ車両システムにも直接組み込めます。
重量もわずか 6 kg と軽量で、既存のCBRN統合システムや産業モニタリング設備に容易に組込可能です。

IMSの膜
IMSの基本原理は、常圧下で動作し、測定セル内の雰囲気組成がイオン形成に影響しています。イオンは多くが水クラスターで形成されるため、水分(湿度)が大きく性能に関与します。このため IMS検出器には乾燥剤が必需品となっています。
Oritest の IMS検出器は膜なしタイプ(Direct Inlet IMS)です。膜があるかないかによって IMS 検出器の性能や特徴には大きな差があります。
IMS検出器の膜・構造 | 利点 | 欠点 |
---|---|---|
膜あり (Membrane Inlet IMS)
サンプルガスが半透膜を通過してイオン化室に入る |
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|
膜なし (Direct Inlet IMS)
サンプルガスが直接イオン化室に流入 |
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化学剤(CWA: Chemical Warfare Agents)
GTD-S II / GTD-Module B は、国際的に禁止されている化学兵器剤の多くを検知可能です。
テロ対策・軍事用途において必須のCWAモニタリングを実現しています。
分類 | 代表的な化学剤 |
---|---|
神経剤 | タブン (GA)、サリン (GB)、ソマン (GD)、シクロサリン (GF)、VX、VXR |
びらん剤(マスタード剤) | イペリット (HD)、窒素マスタード (HN3) |
ヒ素系剤 | ルイサイト (L) |
血液剤 | 青酸 (AC)、シアン化塩化物 (CK) |
窒息剤 | ホスゲン (CG) |
新規剤 | Novichok 系 (A232 / A234) |
GTD-SIIの検出可能物質は拡張可能です。
有毒工業化学物質(TIC: Toxic Industrial Chemicals)
CBRNの脅威は軍事由来だけではなく、産業事故や輸送事故にも存在します。GTDシリーズは以下のような主要TICも検出可能です
テロ対策だけでなく環境モニタリングや産業安全管理にも活用可能です。
分類 | 代表的な化学物質 |
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ハロゲン化合物 | 塩素 (Cl2)、臭化水素 (HBr)、塩化水素 (HCl) |
硫黄系化合物 | 硫化水素 (H2S)、二酸化硫黄 (SO2)、二硫化炭素 (CS2) |
有機化合物 | アクリロニトリル (C3H3N)、ベンゼン (C6H6)、エチレンオキシド (C2H4O)、ホルムアルデヒド (CH2O)、アリルアルコール (C3H6O) |
無機ガス | アンモニア (NH3)、三塩化リン (PCl3)、オキシ塩化リン (POCl3) |
GTD-SIIの検出可能物質は拡張可能です。
使用されている線源
- 放射性核種:トリチウム(H-3)
- 線源タイプ:BH3-X(密封線源)
- 放射能: 100 MBq
- 半減期:12.4 年
線源の構造とシールド
トリチウムは チタンナイトライド(TiN)に化学的に結合され、さらにシリコンとアルミニウム層でシールドされています。デバイス内部に固定され、外部からアクセスできない構造です。通常の運用では放射線源に触れることができず、輸送・使用ともに安全性が担保されています。
被曝に対する評価
トリチウム(H-3)はベータ線のみを出す放射線源であり空気によりほぼ減衰されます。ですがベータ線が金属の遮蔽体当たった時に制動X線が放射され、これにより線量率が少し上がる構造となっています。
- 局所線量率:0.1 m 離れた可触表面で < 0.5 μSv/h 0.5>
- 空気での減衰:1 mm で完全遮蔽
- 水での減衰:1 μm
- 組織での減衰:6 μm 被曝は無視できるレベル
信頼性検証サンプル
信頼性検証サンプルは、化学検知器(例:IMS方式の GTD-S II / GTD-Module B)を定期的に点検・校正するための 専用テスト物質です。
通常運用では検知器が常時スタンバイしていますが、長期間の運用では「検知能力が維持されているか」を確認する必要があります。信頼性検証サンプルは 非毒性で安全に取り扱える代替化学物質を採用しており、実環境での点検試験を行えます。
テスト対象クラス
信頼性検証サンプル完全に封入されており、皮膚や表面に直接触れることはありません。非毒性のため、特別な防護具や規制は不要です。
信頼性検証サンプル H | 主成分 |
---|---|
サンプル H | メチルサリチル酸メチル(Methyl salicylate, CAS 119-36-8)、クラス化学物質(びらん剤系など)の検証用です。 |
サンプル G | 主成分:DPM (Dipropylene glycol monomethyl ether, CAS 34590-94-8)、Gクラス化学物質(神経剤系など)の検証用です。 |

必要なメンテナンスや消耗品
信頼性検証サンプル H | 主成分 |
---|---|
消耗部品 | 乾燥フィルタ、ダストフィルタ、ポンプ、マグネットバルブ |
平均故障間隔 | ポンプ >12,000時間、マグネットバルブ >20,000時間 |
定期点検 | 年1回の簡易交換のみで長期運用可能 |
フィルタ交換 | 循環フィルタは12か月ごとに交換 |
消耗品 | 乾燥フィルタ、ダストフィルタ(0.45μm以下推奨) |
信頼性試験 | Confidence Sample(+/-)を用いた定期検証 |

IMSの基本的なしくみ
調べたい空気やガス中の分子を「イオン化」します。
これは放射線源(例:63Ni)や光(UV・レーザー)などを使い、分子から電子を奪って帯電させる工程です。
これで化学物質が「電気を帯びた粒(イオン)」になります。
できたイオンは電場の中を進みます。 進行方向には常に「空気(ドリフトガス)」が流れており、イオンはその中をぶつかりながら前へ進みます。
イオンの速度(v)はその質量や形によって異なり、 「軽い・小さいイオンほど速く、重い・大きいイオンは遅く」動きます。これにより化学物質ごとに“飛ぶ速さ”が変わるのです。
イオンの流れを一瞬だけ遮る「シャッターグリッド」を開けて、 同時にスタートしたイオン群がドリフトチューブを進み、 それぞれ異なる「ドリフト時間(drift time)」で検出器(ファラデープレート)に到達します。
これを時間軸にプロットすると、“どの物質がどれくらいの速さで届いたか”というスペクトルが得られます。
各物質は固有のドリフト時間をもっており、これを「イオンモビリティ定数(K0)」で表します。
K0は圧力や温度を補正した定数で、物質固有の“動きやすさ”を示す指標です。これによりIMSは、空気中の化学兵器・爆薬・薬物などを即時に識別できるのです。
IMSは難しい科学装置のように見えますが、実は「電気で分子を走らせて、ゴールの速さで判定する」シンプルな仕組みです。
そのシンプルさとリアルタイム性が、世界中でCBRN(化学・生物・放射線・核)防護機器として採用されている理由です。

OPCW(化学兵器禁止機関)
OPCWによるOritest 社の製品・検出紙 CALID3 の紹介動画です。
OPCW(化学兵器禁止機関)の主な任務は、化学兵器の廃絶とその再利用の防止です。 加盟国が保有する化学兵器の申告と廃棄作業を監視し、必要に応じて現地査察を行います。 また民間用の化学品製造施設が兵器転用されていないかを確認するため定期的な査察も実施しています。

Oritest 社
チェコの化学剤検出技術メーカーです。
チェコ共和国は、チェコ ― NATO CBRN防護の中核であり、NATOにおけるCBRN(化学・生物・放射線・核)防護の中心的な国のひとつとして広く知られています。その理由は、ヴィシュコフ(Vyškov)に本部を置く NATO CBRN Defence Centre of Excellence(NATO CBRN防護センター) の存在にあります。同センターは、NATO加盟国の専門家が集まり、CBRNに関する研究、訓練、装備開発、標準化を推進する国際的な中枢機関です。
Oritest 社は1992年、チェコスロバキアで化学兵器防護に対する知識や経験を持つ一流の化学者チームによって設立されました。当社の株主構成はチェコ国民とチェコの金融資本のみから資金提供を受けています。ORITESTの研究員は化学兵器の検出に関して80件を超える特許を保有しています。特に重要なのはコリンエステラーゼに関する特許と、神経ガス検出器での使用されている一連の特許群です。当社は継続的な研究開発方針を通じて世界中の行政機関、軍隊、研究機関に化学剤防護製品を提供しています。
開発実績
チェコ共和国 技術庁(Technology Agency of the Czech Republic)EPSILON プログラムからの資金援助により開発が推進されており、国家研究機関と連携する実績があります。
製品は 国際的な試験機関(Spiez Laboratory、Brno Military Research Institute など)で評価されてきました。


IMS検出器 GTD-S II(据置型)
-
製品の分類
化学剤検出器 -
検出原理
イオン化方式 -
イオン化
トリチウム(H-3)密封線源 ≤100 MBq(低エネルギーβ線) -
機能
ドリフト時間による同定、物質分類・定量(±15% 目安) -
感度
ppb~ppm -
検出対象(例)
- CWA(化学兵器)
- TIC(毒性工業化学物質)
-
インターフェース
- 表示:8インチタッチパネル
- 通信:Ethernet(LAN)、USB、HTTP/XML、Modbus、フローティング接点(アラーム等)
- 遠隔:リモートメンテナンス対応
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電源
AC 110–230 V / 50–60 Hz / 最大150 W -
動作温度
-10~+50℃ -
湿度
0~85%RH(結露なし) -
外形寸法
約 500 × 210 × 500 mm -
重量
約 23 kg -
サンプリング
内蔵ポンプ 約 650 mL/min、差圧 ±20 mbar、ホース長は最大 3 m 推奨 -
粉塵対策
入口に微細ダストフィルタ(孔径 ≤0.45 μm) -
設置
推奨:吊り下げ設置(年1回のフィルタ交換に備え前方 75 cm 以上の開口) -
メンテナンス
年1回の消耗品交換 -
安全性(放射線源)
- トリチウム線源は装置内に固定・密封(外部アクセス不可)
- 空気 1 mm で遮蔽される低エネルギーβ線、外部被ばくリスクは極めて低い設計
- 国内の法規制値以下の線源、放射性同位元素等の規制に関する法律での下限数量以下
-
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