核種識別ソフトウェア PoliIdentify 取扱説明書
GPSログ出力で地図作成と核種識別・スペクトル解析
核種識別の結果について
識別できる核種ライブラリとして、Standard.lib を使った場合に、 福島の原子力発電所由来のセシウムが含まれる土などを核種分析すると、 こちらのようなスペクトルが得られます。
核種識別を行うと、Cs137(セシウム137) , Cs134(セシウム134), U235(ウラン235)が判定されます。 ここで Cs137, Cs134 は、おそらく福島由来ということで、しっかりと判定できていますが、 U235 が本当にあるのか?ということになります。
コンプトン散乱とは?
上記の問題を理解するために、少し物理学のお勉強になりますが、コンプトン散乱について、ご紹介します。
γ線は、空間中を飛びます。そして、やがては、壁や、石などにあたり、物質表面にある電子にぶち当たります。
するとγ線のもつエネルギーで、電子がふっ飛ばされます。 ガンマ線は、一部のエネルギーを電子に与えてしまったので、 残ったエネルギーのγ線になります。つまり別のエネルギーをもつガンマ線に変化するわけです。これをコンプトン散乱といます。
簡単に言えば、ガンマ線は物(電子)に当たると、ガンマ線のエネルギーをちょっと失うので、別のガンマ線になると覚えておいてください。
ウラン235は存在するのか?
再び、Polimasterの測定器で取得したスペクトルに戻ります。
測定器の近くにセシウムがあることは、どうも確かそうです。 ですがU235のあたりに出ているピークは、 実は、セシウムから放出されるガンマ線が、 周りの壁や、測定器に当たって、別のガンマ線になったコンプトン散乱の結果なのです。
純粋なセシウム137からの放射線スペクトルが、どのようになるのか見てみましょう。
シンチレーション検出器でγ線を受けた場合、こちらのようになります。( Wikipediaからの引用です。)
Cs137は、本来は、1つのスペクトルのピーク(山)をもつものですが、 コンプトン散乱によって変化してしまったガンマ線が低エネルギー領域に盛り上がって見えています。
U235は、おそらく、これを誤検出したものと思われます。
2つのスペクトルを重ねてみました。 ピークの位置は、そっくりですね。
U235が本当にあるかどうか、確かめたい場合には、縦軸のスケールをログにすると、 本当のピークかどうか、確かめやすいです。
仮に、U235があるのであれば、もっとピークは、際だって高くなるはずです。 右側のメニューのボタンY軸:線形/ログ表示ボタンで、縦軸をログスケールにした場合のカウント数がこちらです。
ログスケールでみると、U235のピークは、ほとんど盛り上がっていないことが分かります。 もしU235が目の前にあるとすれば、もっと際だった山が、この部分に現れるはずなのです。
このように、スペクトル解析を行うには、ちょっとした知識も必要になります。 セシウムがあるかないかを探索することが多いかと思いますが、 低エネルギー領域で識別された核種については、こうした判定誤りがある場合がありますので、時間をかけて測定し、 本当にピークが明らかに出ているか、注意深く観察する必要があります。
こちらに、福島からの核種だけを判定する Fukushima.lib があります。 こちらを使いますと、こういった判定誤りは少なくなります。