放射線測定器

放射線測定器を選ぶための専門知識を解説。

放射線・放射能計測機器 放射線測定器を勉強しよう!

個人線量計と空間線量計

放射線測定器は、大きく分けると2タイプです。

個人線量計は体温計

個人線量計

個人線量計は、人間の被ばくを測るための放射線測定器です。

たとえば、放射線の強い場所、病院、放射線管理区域、放射線に汚染された地域、除染現場で活動するといった場合に、 放射線によって自分の体がどれぐらい被ばくしたのか知るための放射線測定器です。測定対象は、人間の体になります。

製造段階で人間の体に近いプラスチックの物体の上に線量計を置いて測定値の調整をするため、完全に人間の体専用の放射線測定器です。

個人線量計は、自分の被ばく量を測るという意味で体温計に似たものになります。

個人線量計の例1
個人線量計 PM1610

6cm 角の小型、低消費電力のガイガーミュラー管。USB充電式、30日間の連続動作。

個人線量計の例2
個人線量計 PM1621MA

10 keV の低エネルギーX線まで測定できる高性能・個人線量計。X線検査から原子力発電所などあらゆる用途に最適。

個人線量計の例3
個人線量計 PM1211

iPhone, Android などスマートフォンと連動できる最新モデル。24ヶ月動作できる超低消費電力、最新半導体検出器を搭載。

個人線量計の例4
個人線量計 PM1604A

胸ポケットに止められる小型電子・個人線量計。85グラムの小型・線量計です。

空間線量計は室温計

空間線量計

空間線量計で測定できる数値は、その場所に滞在した場合、どれぐらい被ばくするか?という数値になります。

こちらは室温計のようなものです。その場所の被ばく量を示しています。場所だけではなく、放射線の強い物体があった場合に、近づいた場合どれぐらい被ばくするのかを知ることができます。

空間線量計は、物・場所の放射線の強さを調べる測定器なので使い方としては、手にもって使うことが想定されています。

空間線量計はテロ対策、消防、警察、原子力など幅広い用途とがあるため種類が豊富です。

空間線量計の例1
空間線量計 PM1703MO-II BT

ガイガーミュラー管とCsI シンチレーション、2つの検出器を搭載。高線量から低線量までこれ一台で測定できます。

空間線量計の例2
空間線量計 BDG3

RS485シリアル接続の開発者向け放射線測定器モジュール。プログラムから線量率、スペクトルデータをリアルタイムに取得可能。

空間線量計の例3
空間線量計 PM1704M

核種識別サーベイメーター。放射線のエネルギー解析により、放射線を出している原子名を特定します。汚染物質の素早い特定が可能。

空間線量計の例4
空間線量計 PM1603A

腕時計タイプの空間線量計です。積算線量機能も搭載しており、個人線量計としても利用可能。18ヶ月連続動作、完全防水タイプ。

空間線量計の例5
空間線量計 PM1401K3

アルファ線、ベータ線、ガンマ線、中性子線、高感度汚染調査、核種識別、ベクレル測定機能など、放射線に関わるあらゆる測定をこれ1台で行えます。

空間線量計の例6
空間線量計 PM1405

アルファ線、ベータ線、ガンマ線に対応したサーベイメーター。低価格で必要な測定を行えるモデルです。

個人線量計と空間線量計の違い

個人線量計と空間線量計の区別をつけているのは校正の方法です。

放射線測定器を製造する工場では、セシウム137(エネルギー 662keV) の放射線を照射して測定値が正しくなるように調整します。 身近な体温計でいえば、36度の体温が正しく測れるように目盛りを調整することに似ています。この目盛り(=測定値)の調整を「校正」と呼びます。 放射線測定器も体温計と同じように測定値が正しい値を示すように調整します。

個人線量計と空間線量計は、機械としての違いは基本的にはありません。 個人線量計の方は胸ポケットにいれて使うという決まりがあるため、 胸ポケットに入れた状態で正しい値が出るように調整されています。 個人線量計と空間線量計の違いは、測定値の調整だけなのです。

個人線量計は胸ポケットに入れて使うため、校正する段階でも人体に似たプラスチックの隣において校正します。空間線量計は、手に持って使うイメージなので空間中において校正します。 個人線量計と空間線量計の区別は、基本的にはこの点だけといってよいかと思います。

校正で行う「調整」は、実際には測定値を何か抵抗を変えて調整するような作業ではありません。放射線測定器は、機器の設計段階でほぼ調整しなくても正しく測定できるように設計されています。そのため放射線を照射する段階では、設計通りに正しい値で測定できることを確認するだけになります。一定の誤差よりも差が大きいものは、部品を交換して再チェックするだけになります。

個人線量計の校正では人体組織ファントムの上において校正する
空間線量計の校正では手に持ったイメージで、空間において校正する

測定値の違い

個人線量計と空間線量計には、同じ場所で測定した場合に値が違うのか?、ということですが、実は測定値はほとんど同じです。

放射線が前から人体に当たっているのか、後ろからなのか、といった状況によって差が見られることもありますが、空間中に一様にあるような状況ではその差は わずか数パーセントです

どちらも人間に対する放射線の影響量をシーベルトという単位で測定する機器であるため、違いは大きくなることはありません。普通の用途では、どちらの測定器を買ってよいと言えます。

個人線量計は胸ポケットに入れて測定しているため小型・軽量なことが特徴です。空間線量計は、その場所において使う、あるいは手に持った状態で使う用途になります。

ここまでは教科書的なお話ですが、実際の製品では、個人線量計と空間線量計に大きな性能の差があります。

個人線量計と空間線量計の性能の違い

個人線量計は人間が胸ポケットに入れて持ち運ぶことを想定しているため、小型です。小さいため持ち運びやすいのが特徴です。毎日、業務で身につける必要がある場合には、やはり軽い方がよいので個人線量計がお勧めです。

個人線量計は小型で軽いのが特徴ですが、小さいため放射線測定器としては性能が低いです。「性能が低い」という意味は正しく測れないという意味ではありません。個人線量計も測定値の精度は十分であり、放射線をとても正しく測れます。ですが小型の線量計は体積が小さいため放射線を捕まえる能力が小さく、測定スピードが極端に遅いです。実際使ってみると測定に1回の測定にとても時間かかると感じるでしょう。個人線量計の場合、0から測定開始した場合、測定結果が確定するまでに2~5分間もかかります。

この遅い測定スピードでも個人線量計として使う場合には問題にはなりません。たとえば病院で働いている人が身に着ける個人線量計の場合、病院の職員さんは多少は移動しますが、たいていの場合、同じ部屋、同じ建物で働いていることが多いかと思います。1分ごとにめまぐるしく毎日動くような人はほとんどいないかと思います。そのため人間専用の個人線量計のような測定スピードの遅い小型の機器でも十分に測定することができます。測定時間がたとえ5分かかったとしても、同じ場所にいるなら何度測定しても結果は同じだからです。個人線量計の場合には、何度も早く測る必要性がそれほどありません。

それに対して空間線量計は、何十倍も大きく高性能な機器になっています。これは空間線量計が、テロ対策、原子力発電所、汚染地域での放射線調査に使われる用途が想定されており、専門家向けに高性能な検出器が搭載されているためです。高性能=大きな検出器を積んでいるという意味になります。検出器の体積が大きくなるほど放射線を捕まえる能力が高くなります。放射線測定器の能力はほとんど体積で決まっており、より大きな検出器を積んでいる方が価格も高くなります。価格の差は、性能の差になっているともいえます。実際に使ってみると空間線量計の方が1-5秒で測れるためとても測定が手軽に感じます。

体積の大きな検出器は、測定スピードも高速です。高性能な測定器の場合、1秒~5秒で測定が完了します。車で移動しながらでも放射線の強い場所を即座に知ることができます。測定時間が短いということは、測定しながら行動できる範囲が広くなります。広い場所でどこが放射線が強いのか探したい、大きなものを測定したい、放射線の危険がある場所に入った瞬間に警告がほしい、といった専門的な目的がある場合には空間線量計をお勧めします。

個人線量計と空間線量計をご紹介してきましたが、たろうまるで扱っている放射線測定器ではどちらの測定値も正確です。もちろん測定値も同じです。

個人線量計と空間線量計はどちらも正確ですが、とにかく初めて放射線を測ってみたい方には、性能の高い空間線量計をお勧めします。ある程度、性能の高い方を買われた方が長くお使いいただけると考えております。

放射線測定器の仕様を理解する

放射線測定器のカタログには仕様表がありますが、知らない値と単位ばかりでさっぱり理解できないかと思います。

ここでは放射線測定器の仕様表にある数値を解説いたします。仕様書の数字を理解することで、どこまで測定能力があるのかよく理解できるようになります。 シーベルト単位での測定範囲は、みなさんすでに理解されていると思いますので、ここでは見慣れない仕様の値をご紹介したいと思います。

例として、個人線量計 PM1610空間線量計 PM1704Mの2つの仕様を例にして解説いたします。

製品名PM1610PM1704M
製品カテゴリー個人線量計空間線量計
写真 Polimaster PM1610Polimaster PM1704M
線量率測定範囲0.01 µSv/h ~ 12.0 Sv/h0.01 µSv/h ~ 13.0 Sv/h
  • 固有相対誤差
  • 精度
  • 誤差
±15%±30%
積算線量測定範囲10 µSv~10 Sv測定できない
  • 固有相対誤差
  • 精度
  • 誤差
±20%測定できない
エネルギー測定エネルギー範囲20.0 keV~10.0 MeV33.0 keV~3.0 MeV
  • エネルギー応答
  • エネルギー依存性
137Csを基準0とした場合の応答比
  • -60% : 20 keV~33 keV
  • -40% : 33 keV~48 keV
  • ±30% : 48 keV~3 MeV
  • ±50% : 3 MeV~10 MeV
±30% : 60 keV~1.33 keV
感度0.75 cps/(μSv/h)100 cps/(μSv/h)
防水・防塵IP 65IP 65
製品リンクPM1610PM1704M

感度

最初にご紹介したいのは放射線測定器の感度です。

感度は、放射線を捕まえる能力の大きさ示す数値です。 短時間でたくさんの放射線を捕まえることができれば、何度も平均を繰り返して、測定結果を早く、精度高く行えます。 感度が高いほど使いやすい測定器といえます。ですが感度が高いということは検出器の体積も大きくなり、価格も比例して高くなります。

こちらの2機種を比較すると100倍以上の差があります。個人線量計は検出器が小さいため感度は低くなっています。

製品名PM1610PM1704M
感度0.75 cps/(μSv/h)100 cps/(μSv/h)
放射線測定器の感度

感度は、単位 cps/(µSv/h)で表されます。 意味は 1.0 µSv/hの強さの放射線のある場所に放射線測定器を置いた時、1秒間にcps個の放射線を捕まえることができる、という意味になっています。

例でご紹介すると、0.75 cps/(µSv/h)と 100cps/(µSv/h)の2つの放射線測定器を、1.0 µSv/hの場所に置きます。 まったく同じ放射線のところにおいてあるのに、1台は 0.75 cps, もう一台は 100 cps を示します。 cps という単位は1秒間に捕まえた放射線の個数ですので 100 cps の方がたくさんの放射線を捕まえることができていることになります。 放射線測定器を同じ場所に置いたのに1秒間の捕まることができる放射線量には大きな差があるわけです。

放射線測定器の感度は、デジカメの感度と同じです。

感度の高いデジカメは、暗い場所=光の少ない場所でも短時間で写真を写せます。 感度の低いデジカメは、暗い場所だと長時間の露光が必要になります。

放射線測定器の感度もまったく同じです。 放射線の少ない場所(暗い場所)で短時間で測定できるのはより感度の高い測定器というわけです。

放射線測定器の感度は、検出器の体積に比例しています。 サイコロ程度の検出器と、ドラム缶サイズの検出器であれば放射線を捕まえる能力が高いのは大きい方に決まっています。 体積が大きい方が自然と入ってくる放射線が大きくなるためです。

価格も大きい方が高くなります。 放射線測定器の価格差は、検出器の体積の差、性能の差と考えてよいかと思います。

感度が高い放射線測定器

利点=短い測定時間

感度が高い測定器は、放射線をたくさん捕まえることができる測定器です。高感度な測定器ほど短時間で測定ができます。

特にドローンや車で移動しながら測定する場合や、様々な場所の放射線を測定したいという目的の場合には、できるだけ感度の高い測定器を選んでください。感度が高い測定器は短時間で測定できるため、移動しながら変化する放射線をリアルタイムに測定できます。

弱点=超高線量に弱い

感度が高い放射線測定器にはいいことばかりのように書いてきましたが、不得意な分野もあります。実は放射線がとても強い場所では使えません。放射線を捕まえる能力が高いため、放射線がいっぱいある場所(=放射線の強い場所)では、 測定器内の検出部に放射線がいっぱい入ってくることになります。

検出器に入ってくる放射線の数があまりに多くなると、検出器が放射線の数をひとつ、ふたつと数えられなくなってしまい 正しい放射線測定を出せなくなる、という問題があります。 検出器内が放射線でいっぱいになるという意味で、この状態を検出器の「飽和」と呼ぶことがあります。 高感度で高性能な放射線測定器は、1 Sv/h より上では使えないと考えた方がよいです。

それほど高い放射線を扱うことはめったにないと思いますので、たいていの場合には、高感度な測定器が使いやすいです。

感度が低い放射線測定器

利点=高線量の測定・価格が安い

感度が低いということは放射線を捕まえる能力が低いわけですが、 高線量での測定では感度が低い方が安定した測定ができます。 1 Sv/h を超えるような高線量では、空間中に高い密度で放射線が飛んでいることになります。 この状態では、検出器が小さいか、あるいは放射線が入ってきても捕まえずに反対型に逃がしてしまうような低感度の測定器の方が正しい測定ができます。

低感度な放射線測定器は価格が安いです。個人線量計など短い測定時間が要求されない場合には、価格が安いということが利点になります。

弱点=低線量に弱い

感度が低い放射線測定器は、通常我々が生活する 0.1μSv/h といった低線量の測定には2~5分の時間がかかります。測定時間が長いために公園など広い場所の放射線量を測定する場合に1カ所に5分も時間がかかると、広い場所は簡単には測定できなくなります。

いくつかの放射線測定器は、高感度と低感度の2つの検出器を持つことで、低線量から高線量までを短時間で測定することができるようになっています。

空間線量計の例1
空間線量計 PM1703MO-II BT

ガイガーミュラー管とCsI シンチレーション、2つの検出器を搭載。高線量から低線量までこれ一台で測定できます。

エネルギー特性

放射線測定器を1つ持っていれば、どんな放射線でも測定できるのが理想ですね。セシウム137、カリウム40、ウラニウム、プロトニウム、アメリシウム、コバルト、、、どんな放射線でも正しく測定できるのが理想の放射線測定器といえます。

ですが実際には放射線を出している物質が変わると、放射線測定器は正しい測定値から少しずれた値を表示してしまいます。すべてのエネルギーの放射線を正しく測定できるような理想的な測定器はありません。

そもそも放射線のエネルギーって何?

と思うかもしれません。あまり詳しく解説してもなおさら理解できなくなりますので、電磁波、可視光などとエネルギーを比べた図をご紹介します。テレビ放送の電波も当然エネルギーを持っていますが、 放射線のエネルギーは、図の右側になりますがずっと大きなエネルギーをもっていることが分かります。エネルギーの一目盛りで10倍エネルギーが大きくなります。

このエネルギーの大きさが生物の遺伝子情報を破壊できる原因になっています。電磁波は体に当たっても遺伝子は破壊しませんが、放射線は遺伝子を破壊することができるわけです。

放射線のエネルギーを比較

参照

ガンマ線のエネルギーを比較

放射線を出す物質ごとにエネルギーが異なる

放射線はエネルギーを持っていることを、なんとなく理解できたと思います。次は放射線を出す物質によって少しづつエネルギーが違うことを見ていきましょう。

放射線を出す放射性核種は、3000種類以上が知られていますが、すべては書き切れませんので4つだけガンマ線のエネルギーを図にしてみました。 物質が変わると放出されるガンマ線が違っているという意味は、この図のようになっています。

右図では、右側にいくほど高いエネルギーを持っている放射線である、という意味になっています。

放射線測定器の工場では137Csで機器を調整する

放射線測定器を製造する工場では、たいていの場合、セシウム137(エネルギー 662keV) の放射線を照射して測定値が正しくなるように調整します。身近な体温計でいえば、36度を正しく測れるように目盛りを調整することに似ています。この目盛りの調整を「校正」と呼びます。

校正時に使われた137Cs(セシウム137/エネルギー 662keV)の放射線を測定する時にはとても正確な値を示します。調整したものと同じ放射線ですので、当たり前ですね。もちろんセシウム137を使って比較すれば、他社の放射線測定器であっても測定値はぴったり一致します。(校正さえしていない機器もありますのでそれは論外ですが)

これで一見すると問題ないように思いますが、実際の放射線測定の現場、特に原子力事故の現場では目の前に100%の純粋なセシウム137の放射線しか存在していない、、ということはありえません。 原子力発電所や除染の現場では、様々な物質からの放射線が混じっていることはよくあることです。つまり実際測る放射線は、様々なエネルギーが混ざっているのです。

ここで課題となるのは、137Csで測定値を調整した放射線測定器が、241Amの放射線を正しく測れるのか?という点です。実は完全に正しくは測れません。測定値が少しずれてしまうのです。

放射線測定器のエネルギー依存性

ここで放射線測定器のカタログにある「エネルギー依存性」や「エネルギー応答」という項目を見ることで、様々な物質の放射線を測った場合、どれぐらい誤差がでるか?を知ることができます。 たいていの場合、エネルギー依存性は、±10~±30%といったパーセントの数値になっています。これは正しい値から10%ぐらいずれる可能性がある、という意味になっています。 ±30%でも十分に優秀な放射線測定器といえます。

製品名PM1610PM1704M
  • エネルギー応答
  • エネルギー依存性
137Csを基準0とした場合の応答比
  • -60% : 20 keV~33 keV
  • -40% : 33 keV~48 keV
  • ±30% : 48 keV~3 MeV
  • ±50% : 3 MeV~10 MeV
±30% : 60 keV~1.33 keV

この2機種を見てみると PM1610 の方は放射線のエネルギーに応じて様々に値が変わってしまうことが分かります。ですが、48 keV~ 3 MeV の一番広い測定範囲の部分では、±30%ということで比較的落ち着いた測定ができるようになっています。

PM1704Mの方は、±30%です。この意味は137Csは校正で使った放射線源なので一番誤差が小さく測定できるが、それ以外の60 keV~1.33 keVの範囲のエネルギーの放射線を測る場合には、測定値が±30%と前後することを意味しています。

このように仕様の数値を見ると、放射線測定器の性能がよく分かるようになります。-60%といった大きな値になるとちょっと使えないな、、と思いますが、 ある意味でここまで仕様を公開しているメーカーの方が誠実だと思います。測定器によってはエネルギー応答の仕様がまったくないものもあります。その場合には137Csのみを測れるがそれ以外はまったく測れない、、と考えた方がよいです。

福島の原子力発電所事故の場合

福島で発生した原子力災害では、セシウム137が最も多く残った放射性物質として知られています。この事故関連の測定を行う場合には、測定対象がセシウム137になります。 この物質は製造工場で行った校正と同じ物質なので、一番正確に測定できる物質になります。そのため福島で発生した原子力災害関連で放射線測定器を使う場合には、エネルギー依存性は特に気にする必要はないといえます。

ですが、研究室等でアメリシウム241を大量に保有しておりセシウム137で校正した放射線測定器を使いたい、といった場合にはエネルギー依存性がどれぐらいあるのか知っておくべき仕様となります。

固有相対誤差

難しいので眠くなるかも...

この仕様は一般ユーザーには重要ではありません。

校正検査の詳細を知りたい方のみ読むとよいです。その他の普通のユーザーの方はこの章は無視してもよいかと思います。

固有相対誤差、、、、正直、言葉だけ聞いても何のことがまったく分からない仕様項目です。これは簡単にいえば、製品の個体間での測定値ばらつき範囲を示しています。 放射線測定器の仕様の中では、線量率の測定、積算線量の測定の部分に記載があります。

製品名PM1610PM1704M
線量率測定範囲0.01 µSv/h ~ 12.0 Sv/h0.01 µSv/h ~ 13.0 Sv/h
  • 固有相対誤差
  • 精度
  • 誤差
±15%±30%
積算線量測定範囲10 µSv~10 Sv測定できない
  • 固有相対誤差
  • 精度
  • 誤差
±20%測定できない

これも身近な体温計で考えてみると、最初に買ってきた体温計は 36.5 度を示したのに、次の製品では 36.7 度だった、ということは容易にある状況です。 このように測定器には個体間で多少のばらつきがあるわけです。

シーベルト単位で放射線測定を行うときに、製品間で少し差があることを示しています。ですが通常の日本の放射線量である 0.1μSv/h のところだけみても差は見えません。測定器を100台ならべても、ほぼすべて同じ数値になります。 ここでいうばらつきは、もっと高線量まで見た場合に見えてきます。

校正証明書の検査成績データを見る

放射線測定器には、実際に137Csの放射線を低線量から高線量まで照射したときに、どういった結果になったのかのデータが付属しています。 こちらは PM1610A の校正証明書の例です。

校正証明書の例 : 背景放射線量 0.12μSv/h での測定
実験1 基準となる照射放射線量
実際に校正を行う設備で照射した放射線量。ここでは 8μSv/h~8000mSv/h まで4段階の照射を行う。
8μSv/h 80μSv/h 800mSv/h 8,000mSv/h
計算1 5回照射の平均測定値overline{dot{H_j}}
照射したときの放射線測定器の読み値の平均。これはあなたの個人線量計で測定した値になります。照射線量と少しずれていますね。
8.39 82.46 799.79 7876.75
計算2 相対誤差q_j
平均値と照射線量の間の誤差を%で計算します。
3.38 2.92 -0.03 -1.54
計算3 信頼確率sigma
ここから計算が急に難しくなります。放射線測定器自体が持っている誤差と校正設備自体がもつ誤差を合わせて 考えた上で統計的に95%のばらつきの範囲に拡張して考えた範囲%で計算しています。
5.76 5.45 4.4 4.71
仕様の要求値 偏差
この線量計の場合の誤差の最大範囲です。信頼確率がこの値以下であれば、校正検査「合格」となります。
±10.19 ±10.02 ±11.2 ±22.0

難しいかも...

ここでは分かった気になるために以下ことだけを理解しておきましょう。

  1. 実験1(表の1行目)で放射線量を照射した
  2. 計算3(表の4行目)で測定値のばらつきの数値(%)が得られた
  3. 表の5行目の要求値よりもばらつきが小さかったので校正検査合格とした!

このように高線量まで照射してみると、放射線測定器のばらつきは線量に応じて様々ということがわかるかと思います。校正検査では、ばらつきの上限値が決められていて、それ以下であることを確認しているわけです。

校正証明書の詳しい計算方法は、こちらをご覧ください。

放射線測定器の校正検査のばらつき

図で表すと、点線が基準となる正確な放射線量で、青線は実際の製品でばらつきがあることを示しています。黄色の範囲に入っていれば校正検査合格というわけです。

点線は理想的な放射線測定器です。常に正しい値を示す線といえます。それに対して実際の製品は青線のようにばらついているということです。