高速中性子だけを検出・カウント

減速材を使わない

減速材は中性子を減速させるために中性子検出器でよく使われていますが、測定器の感度低下、中性子の入射したタイミングやエネルギー情報が失われる欠点があります。

S670中性子検出器は、減速材を使わない検出器です。そのためヘリウム 4を使い NaIガンマ線検出器と同様にシンチレーション光によって中性子検出することで、 正確な中性子の入射タイミングとエネルギースペクトル情報を取得が可能です。

エネルギー分布

S670高速中性子検出器は、高圧ヘリウム 4内で中性子が弾性散乱する時に発生する光をSiPM光検出デバイスで検出して、そのパルス信号から光の強さ、持続時間を解析します。

光パルス信号の持続時間は、高速中性子のエネルギー(速度)に比例しており、持続時間ごとにカウントすることで中性子に対するエネルギー・スペクトル測定が可能です。

ヘリウム 4

ヘリウム 4は、熱中性子に対して低感度、高速中性子で高感度な物質であるため核分裂や核融合からの高速中性子に対して最適な材料です。

そして透明でNaIと同様に優れたシンチレーション材料であり、中性子が入射して発する光を SiPMシリコン光検出器で検出することで中性子の入射タイミングやスペクトル測定が可能です。

ガンマ線排除率 10-7

中性子検出においてガンマ線はやっかいなものです。理想的な中性子検出器は、中性子だけに応答してガンマ線には応答しないことが求められています。

S670は、シンチレーション方式の中性子検出器であり、ヘリウム 4に入射したガンマ線と中性子の光パルス出力の継続時間の違いからガンマ線を簡単に分離することができます。

2タイプの製品

S670

高速中性子だけの検出・カウントができるヘリウム 4 シンチレーション・高速中性子検出器です。

S670e

こちらも同様ですが、ヘリウム 4 高圧ガス管内にリチウム 6 のコーティングを行い、熱中性子に対しても感度を持たせた検出器です。高速中性子と熱中性子を分離して検出カウントができます。

ヘリウム 4 シンチレーション・高速中性子検出器

従来の中性子検出器

従来の中性子検出器は、ヘリウム3(He3)、リチウム6(Li6)、ホウ酸10(Bo10)などの物質が使われています。これらの物質は低速・低エネルギーな熱中性子に対して感度が高い特徴があります。 そのため中性子を検出するには、すべての中性子を減速させて熱中性子に変えてから検出・カウントする仕組みになっています。

減速材は水素原子を多く含む物質からできており中性子に対する散乱断面積が大きいことが特徴です。 減速材に入射した中性子は水素原子に衝突をくり返して速度を落としながら最終的に減速材の中心に配置されたヘリウム3・比例計数管で検出・カウントされる仕組みになっています。

減速材を使う検出器には、次の利点と欠点があります。

減速材の利点と欠点
利点
  • エネルギー特性が平坦になる効果があり、線量計など人間の被ばく測定にも利用できる。
  • 厚みを変えることで測定したい対象の中性子線を効率よく検出することができる。
欠点
  • 減速材は遮へい材でもあるので検出感度が低下する。
  • 衝突をくり返しながら最終的にカウントされる仕組みであるため中性子線が入射した正確なタイミング情報は失われる。
  • 入射初期に持っていた中性子のエネルギー情報は失われる。
減速材とヘリウム3検出器

ヘリウム 4を使った新しい中性子検出器

検出器 S670 は、高速中性子だけを測定することを目的としています。そのため高速中性子に対して感度が高いヘリウム 4を使用し、 減速材がない構造を持っています。[2]

ヘリウム 4は、無色透明の気体で、ガンマ線 NaI シンチレーションと同様に優れたシンチレーション材料として知られています。[1]

中性子がヘリウム 4に入射すると弾性散乱を起こし、その衝突によって光が発生します。 これをシリコン光検出デバイス(SiPM)で検出して、光の持続時間、強さなどをパルス信号として検出する仕組みです。

減速材を使わない、高速中性子線に対して感度が高い物質(ヘリウム 4)を使うことで、いくつかの特徴が生まれます。

ヘリウム 4と中性子の弾性散乱
  • 特徴 1ガンマ線に対して低感度

    ヘリウム 4は、気体中の電子密度がとても低く、高線量のガンマ線に対して低感度な特性を持っているため中性子線検出器に理想的な材料です。これにより大型X線スキャナーなどの高線量ガンマ線下でも中性子を測定できます。

  • 特徴 2エネルギースペクトル分析

    高圧ヘリウム 4に入射した中性子は、弾性散乱してシンチレーション光を発します。この光をSiPM(シリコン光子測量デバイス)で検出することで中性子線の正確な入射タイミングとエネルギー情報を測定できます。

ヘリウム3と4の散乱断面積
  • 特徴 3熱中性子に対して低感度

    3つの理由から熱中性子に対しては低感度になり高速中性子だけを検出・カウントできます。[2]

    • 熱中性子はあまり移動しないため減速材が検出器の近くにない限りは、検出器の近くでは熱中性子は通常は検出されません。S670は減速材がありません。
    • 熱中性子と比べて、核融合や核分裂から発生する中性子は高速なものが圧倒的に多くなります。
    • ヘリウム4は熱中性子に対して一定の感度を持っています。 しかし、検出器で生成される光は弾性散乱で交換されるエネルギーに比例します。 熱中性子のエネルギーは極めて小さいため、弾性散乱のために発生する光の量は無視できます。実際に検出器ではノイズとしてもカウントされません。

    検出器 S670は高速中性子だけを検出できます。検出器 S670e は検出器内にリチウム6がコーティングされており、この部分で熱中性子の光反応が大きくなるように工夫されています。そのため S670e は熱中性子と高速中性子の2つを検出できます。

  • 特徴 4減速材なし

    減速材を使わないことで中性子の正確な入射タイミングとエネルギー情報を得ることが可能です。検出された光の強さは中性子のエネルギーに比例しており入射した中性子のスペクトル分布を見ることができます。さらに光の継続時間を解析することでガンマ線、高速中性子線を分離した検出とカウントを実現しています。

  • 特徴 5低い背景放射

    核分裂からの高速中性子( 0.5~5 MeV ) の領域でより低い背景放射特性を持っています。

測定原理

ヘリウム 4に中性子やガンマ線が入射すると、弾性散乱が発生して光が発生します。

この光は検出器の中心軸上に配置された24個の光検出デバイス(SiPM)によってパルス信号に変換されます。

  • ガンマ線がヘリウム 4に入射すると最初に強い光パルス信号がナノ秒オーダーで発生しすぐに消えていきます。
  • 中性子線の場合には、こちらも最初は強い光パルス信号が発生しますがそれに続いてマイクロ秒オーダーで弱い信号が継続して続きます。

これは液体ヘリウム中で発生する光パルス信号と同じ仕組みですが、中性子の場合には、ヘリウム 4ガスとの最初の衝突から徐々に速度を落としながら継続的にヘリウム 4と弾性散乱を繰り返すため信号の継続時間がガンマ線よりも長くことが知られています。[3]

ヘリウム 4と中性子の相互作用
ガンマ線の排除しきい値

ガンマ線の排除

光パルス信号を最初にすぐに見える大きなピーク信号を「早い成分」、長時間続く信号を「遅い成分」としてガンマ線と中性子線の信号を分けた結果が次の図です。

赤は60Co線源(ガンマ線)、黒はAm-Be線源(ガンマ線+中性子線)からの信号です。ここで太線のしきい値ライン設定することでガンマ線と中性子を理想的に分けることができます。

S670検出器シリーズでは実際にはもう少し単純にパルス継続時間の長さだけでガンマと中性子の信号を区別しています。

単純な時間による識別だけでもS670検出器シリーズでは、ガンマ線の排除率 10-7を実現しています。 中性子の検出器においてガンマ線の排除は重要な指標です。

2つの検出器 S670, S670e

高速中性子検出器 S670 シリーズには、2種類( S670 , S670e )があります。

S670は高速中性子だけを検出カウントします。S670e はヘリウム 4管内にリチウム6がコーティングされているためこの部分で熱中性子が光を発することで熱中性子もカウントできる仕組みになっています。

このグラフで横軸は、パルス信号の継続時間になっており放射線のエネルギーと相関があります。

減速材の利点と欠点
S670
  • 高速中性子だけを検出
  • ガンマ線の排除率を変更できる
  • 熱中性子線は自動的にカウントから排除されます。
S670e
  • 高速中性子だけを検出
  • ガンマ線の排除率を変更できる
  • 熱中性子線もカウントできる。
ガンマ線の排除しきい値
高速中性子検出器の設定

測定器の設定

S670とS670e 高速中性子検出器は、いくつかの微調整が可能です。

  • ガンマ線の強さに応じて、排除する設定を変える
  • 熱中性子線と高速中性子のしきい値を変える

この図では3つの線源を使って測定器の応答を見ています。

ガンマ線のみの線源
高速中性子のみの線源
減速材をおいて高速中性子を熱中性子に変えた線源

3つの線源を使ってしきい値(low cut, middle cut)を変更することでガンマ線の排除率や、熱中性子線と高速中性子線のしきい値を設定することができます。これ以外にも光パルス信号に対する応答を細かく調整することが可能です。

検出器の構成

検出器は Linux OS と接続して測定するシステムになっています。OSを起動すると測定ソフトウェアを起動できます。

これ以外にデジタイザーやオシロスコープを接続して検出器からの TTL出力を分析する方法も利用できます。

検出器は複数の測定器を同時に接続して広い面積と大きな感度を実現することもできます。

ガンマ線の排除しきい値

参考文献

[1] E. Aprile, A.E. Bolotnikov, A.I. Bolozdynya and T. Doke, Scintillation detectors, in Noble gas detectors, Wiley-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA, Weinheim Germany (2006); J.B. Birks, The theory and practice of scintillation counting, Pergamon Press, New York U.S.A. (1964);
G.F. Knoll, Radiation detection and measurement, Wiley, New York U.S.A. (1989); B.A. Dolgosheim and B.U. Rodionov, The mechanism of noble gas scintillation, in Elementary particles and cosmic rays. Volume 2, Atomizdat, Moscow Russia (1969).
[2] H. Friederich et al., A scalable DAQ system based on the DRS4 waveform digitizing chip, IEEE Trans. Nucl. Sci. 58 (2011) 1652.
[3] D. McKinsey et al., Time dependence of liquid helium fluorescenc
[その他]

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高速中性子検出器 S670, S670e 仕様

  • 製品の分類

    検出器
  • サイズ

    全長915mm
    検出器部分 600mm
    直径70mm
  • 重さ

    6.6 kg
  • 中性子線感度

    • S670 : 0.04 cps/ng ( 252Cf (2m)
    • S670e : 0.12 cps/ng ( 252Cf (2m)

    S670eは高速と熱中性子線を分離してカウント可能
  • ガンマ線排除率

    10-7
  • ガンマ線耐性

    200 uSv/h
    0.9 < GARRn < 1.1
  • 出力

    • MCX 同軸出力(メス,MCX-BNCアダプターも利用可能)
    • TTL出力。TTLレベル 3.3V, Rise time< 5 nS, ドライブ電流 24mA
    • パルス幅 : 標準 80nS, 10-2560 nS でプログラム可能
    • 出力パルスの長さで高速、熱中性子線の分離出力も可能(S670e のみオプション)
  • 制御ケーブル

    • D-Sub 15ピンコネクタ接続:制御ユニットとの接続
    • 最大8検出器まで接続可能
  • 電源

    • 12V, 2.5W(1検出器あたり
    • 高電圧は不要
    • 検出器は数珠つなぎ可能
  • 動作温度

    -30~+30度(高温での仕様にも改造可能)
  • 湿度

    0~100% (検出器は霧状態でも使用可能)
  • 防水・防塵クラス

  • 圧力容器仕様

    CE, 2014/68/EU
  • 労働安全衛生法(圧力容器)

    • 適応外
    • 圧力容器 内径44mm, 長さ600mm, 圧力 18MPa
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